KOJI YAMASHITA -KEEP THE FAITH EPILOGUE_3-
 ピーター・バラカンさん、HEAVENSの小松敦さんとの鼎談を終えて、いや、本当は最初から作品をつくりたいと思っていたんです。
       鼎談は本当にいい話ができたなと思っています。でも、いくら一緒にいい話ができたといっても僕はミュージシャンじゃなくて美容師だから「ヘアスタイルの作品でいいものをつくりたい」と、自然にそう思ったんです。
 僕にとっていい作品をつくるというのはどういうことか?
        それは、大勢と一緒ではない、「次を予測させる」ものが入っていること。
        今回はリーゼントレイヤーにして、今かわいく見える水色、冬に来るかなと思う黒で作品を構成しました。リーゼントも古くさいリーゼントではなく、今の時代のパーマとカラーが入っているスタイル。
        音楽に造詣の深いバラカンさんとの話は、当然音楽について語ることが多かったけれど、もともと僕は音楽や映画からヘアスタイルのインスピレーションを得ることに心地よさを感じています。だから今回も音楽をバックボーンに持つヘアスタイルを自然に選んで、音楽を感じさせる作品にしました。
        今回選んだのは、エヴリシング・バット・ザ・ガールのファーストアルバム『エデン』の冒頭をかざる“Each And Every One”。 
        当時のエヴリシング・バット・ザ・ガールは、見た目はパンクでアバンギャルドなのに、ボサノバ風の曲に、ベン・ワットのさわやかなギターの音、そのリズムに合わせて体を揺らせながら、ボーカルのトレイシー・ソーンが、愁いを帯びた感じで歌っていた。
        その対比に品のよさをとても感じていました。
        僕の場合は、サロンワークでもその人の日常にないものやその人に相反するエッセンスを少しだけ加えて、いい意味でその人の期待を裏切りたいと思っているし、その人の持つ上品さをいつも引き出してあげたいと思っています。
        だから、作品をつくるときも、そのときだけ特別なヘアスタイルをつくったりすることはしません。いつものヘアスタイルにエヴリシング・バット・ザ・ガールの“Each And Every One”のような「相反する」または「少し違和感のある」ものをあわせて、上品さを追求している。今も、そしてこれからもそうやっていきたいと思っています。

 
         
         
         
        